牡蠣とホタテのブルギニヨンバター【ソムリエが教えるワインと簡単リッチ飯 vol.6】
2020年12月20日 08:00目次 [開く]
■「ブルギニヨンバター」と「エスカルゴ」
ブルギニヨンバターってご存知ですか?
またの名を「エスカルゴバター」と言います。ひと昔まえまでエスカルゴなんてビストロに行かないと食べられなかったのですが、最近では「サイゼリヤ」さんにもオンメニューしているのですね。カタツムリ料理がこんなにも一般化されているとは驚きです。流石「サイゼリヤ」さん。
エスカルゴ自体には特徴的な味はないのですが、正にその味を決めているのがあの緑色のバター「ブルギニヨンバター」なのです。パンにつけて食べると止まりません。たっぷりのパセリとニンニクが効いています。さらにはアーモンドなどナッツ類を使ったレシピも多いのでオーブンで焼き上げたり加熱することで、なんとも香しく、食欲をそそる香りが立ち昇ります。多くの方がどうやらこの香りを嗅ぐとエスカルゴを連想されるようです。
「カタツムリのバター焼き」なのですが、日本ではデンデンムシの歌が浮かぶくらいで、食用のイメージはないですよね。梅雨の時期に出てくるカタツムリが想像されると思いますが、本場のフランスでもカタツムリならなんでも食べるわけではないようです。ちゃんと食用の「エスカルゴ」がいるのですね。せっかくなのでちょこっと調べてみました。なかなか面白い情報が出てきたので簡単にまとめてみます。
エスカルゴまとめ
1.エスカルゴの歴史
実はかなり歴史ある食材でした。古代ローマ帝国時代から食べられていたそうで、飼育場でカタツムリを太らせてから食べるようにしていたとか。流石グルメなローマ人。さらには広く東へ中国でも漢方薬として存在していました。意外と栄養価が高い食材です。フランス発祥とばかり思っていました。2.エスカルゴの種類
一般に食用とされるエスカルゴは大きく分けて4種類ありました。学術的には「らせん」を意味する「Helix=ヘリックス(エリックス)」が頭につけられます。この中でも本物のエスカルゴであり最高級なのがポマティア=ブルゴーニュ種だそうです。日本名はリンゴマイマイ。・ヘリックス・ポマティア(エスカルゴ・ド・ブルゴーニュ:40~55mm)
・ヘリックス・アスペルサ(エスカルゴ・プチ・グリ:28~35mm)
・ヘリックス・アスペルサ・マキシマ(エスカルゴ・グロ・グリ:40~45mm)
・ヘリックス・ルクラム(エスカルゴ・トルコ:35~40mm)
3.野生種と養殖の成功
昔は葡萄畑で天然のエスカルゴが取れたがようですが、今はブルゴーニュ種は絶滅寸前で、フランス国家保護指定動物になっているそうです。本国フランスでは7月に狩猟解禁になるそうですが、もっぱら養殖物が主流のだとか。大半が「プチ・グリ」や「グロ・グリ」種だそうです。両種が6ヶ月で成熟するのに対し「ブルゴーニュ」種は成熟に2年かかります。それでは高級品になるわけです。しかも最高級品種ブルゴーニュの養殖に世界で初めて成功したのは、なんと日本でありました。鉄工所の社長さんが入れ込んだ研究により、成し遂げられたそうです。(株)三重エスカルゴ開発研究所さんが運営する「エスカルゴ牧場」と言うところで昭和62年から研究されていました。調べてみるもんですね。色々と勉強になります。
4.流通と処理法
日本では国内産以外ですと缶詰の輸入品がほとんど。大抵がプティ・グリ種。そしてアシャティーヌ種と呼ばれるアフリカマイマイも多いようですが、こちらはそもそもがエスカルゴではないそうです。なるほど。ブルゴーニュ種食べたこと無さそうだな。処理法として、野生種に限っては腸内に有毒植物などが残っている可能性もあるため、10日前後絶食させるそうです。腸内の残留物を完全に排出させてから、セラーなど低温状態のところで仮死状態にしてから茹でて殻から外します。
ここからは私も処理経験あります。ヒョロっと飛び出した消化管を取り除いて、クールブイヨン(香味野菜とブーケガルニとスパイスを白ワインと水で煮込んだもので、臭み消しに使われます)で下茹でします。その後しっかりと水気を切り、氷でよく冷やし、消毒した殻に戻して「エスカルゴバター」を詰めて完成。オーダーが入ったらオーブンへ。
流通として最後にもう一点。エスカルゴの王様ブルゴーニュ種の白い卵は、なんと「ホワイトキャビア」としてチョウザメのキャビアと同じくらい高級品なのだとか。手間のかかる無菌養殖の上に成熟期間も2年と長く、その上に卵を採取してしまうわけですから、そりゃ生存率は下がります。コストが掛かってますね。
5.生態
雌雄同体であります。一体がメスであり、オスでもある。ただし単独で受精するわけではなく交尾して繁殖します。そして越冬、いわゆる冬眠します。普段は粘膜質の体に石灰質の物質を分泌して体表を固く覆うそうです。そしてこの冬眠直前がいちばん栄養を蓄えた時期であり、いちばん美味しい時期なのだとか。なるほど。そしてなんと貝類でした!
と言うことで、今回は「エスカルゴバター」を使ってお料理します。パセリ連投ですが、残ってしまいがちなパセリの大量消費術として「ペルシヤード」に続く第2弾。古巣のブラッスリー「ヴァトゥ」のレシピを家庭の分量にしてご紹介したいと思います。
■佐藤の古巣「ブラッセリー・ヴァトゥ」のレシピ
無塩バター 2ポンド(900g)ニンニク 60g
エシャロット 60g
塩 24g
パセリのみじん切り 200g
アーモンド 適量
レモン汁 適量
ペルノー 適量
※ペルノーとは?
ゴッホがこよなく愛した「アブサン」を1797年にペルノ氏が創製したが1915年にフランスで製造禁止になり、アブサン代替品として、第一次大戦後に発売したのがこのペルノ。アニスを主体として15種のハーブも配合。19世紀のハード・ドリンカーたちに愛された「アブサン」の後継者として世に送り出されたのが「ペルノー」です。
■ソムリエ佐藤のご家庭版改良レシピ
有塩バター 200gニンニク 13g
レッドオニオン 35g
塩 1g
パセリのみじん切り 25g
アーモンド 6g
レモン汁 大さじ1
スターアニス(八角) 2g(1かけ)
■古き良き思い出…
ヴァトゥに入って2週間ほどの頃、現場の料理長Yシェフよりももっと偉い、グループの総料理長のEシェフがやって来ました。初代料理長です。威圧感がすごい。目がぎょろぎょろしています。私を紹介してくれた恵比寿ギャマンの藤井シェフの先輩にあたる人で入社時に面接してくださいました。この日は「どうだ、頑張ってるか?」と私の様子をわざわざ見に来てくれたようです。少々お酒がお好きな方でして、いつもよりちょっぴりテンションが高かったのを覚えています。この日も忙しくてなかなか仕込みが進みません。ランチが終わればすぐにディナーが始まります。いつでも食事の取れるのがブラッスリーの定義。これはいつもの流れ。
Eシェフが来たのはディナーのオーダーをこなしつつ、一段落し、なんとか仕込みに手をつけられた、そんな時間帯でした。覚えたてのエスカルゴバターを仕込んでいると、Eシェフが覗き込みます。「お、ちゃんとペルノー入れてるか?」と。「はいレシピ通りにやっています!」と私。「ところでギリシャにもペルノーに似た酒があるのを知ってるか?」とEシェフ。「いえ知りません」と私。何となく嫌な流れ…。
持ってきました。アルコール38度。きた。
「ちょっと味見してみるか?」とEシェフ。
「はい…」と私。
ショットグラスくらいだろうと完全に油断していました。Eシェフはおもむろに手を伸ばし一つの容器を手に取ります。「深型バットの0号」です。その横には小さなプリンカップもあるのにです。
Eシェフ、完全に悪い顔になっています。目が楽しそうです。ドボドボと「ウーゾ」が注がれて行きます。
プリンカップ1杯分の量はすでに遥か彼方です。「ウーゾ」は止まりません。通称「弁当箱」と呼ばれる深バット0号はまあまあ入ります。マックス650mlです。「ウーゾ」は1瓶700mlです。Eシェフは目だけでなく、もはや隠さず顔が笑ってます。歯が見えてます。
弁当箱に約7、8分目。
私の顔は完全にひきつりました。「多いな…」「相当に多いな…」
「ほれ」とEシェフ。
「ありがとう御座います…」と私。
手に取り容器の中身を見つめます。「多いな…」
そして一気に飲み干しました。
さて、「ウーゾ」とは、フランスには「ペルノー」がありますが、同じアニスのお酒でギリシャには「ウーゾ」という名のお酒があるのです。あれから決して忘れることはありません。エスカルゴバターを作るたびに思い出していました。いまだにバーでペルノーを見るたびに思い出します。今なら完全にパワハラ100点満点です。時効ですけど。
「エスカルゴ」は輸入食材屋さんや通販でも手に入りますので、ご興味のある方は是非お試しください。私も機会を作り三重県にヘリックス・ポマティアを食べにいきたいと思っています。今回は同じ貝類で手に入りやすい食材に変えて調理して行きましょう。
こちらも今が旬の「牡蠣」と「ホタテ」を。野菜は肉厚の「シイタケ」とバターとの相性が良い「ジャガイモ」を使います。
■牡蠣とホタテのブルギニヨンバター
調理時間 30分 1人分 723Kcal
レシピ制作:佐藤 尊紀
<材料 2人分>
生カキ 6粒
ホワイトペッパー 適量
ホタテ(ベビー:ボイル) 6個
ジャガイモ(メークイン:大) 1個
シイタケ(生) 3個
シュレッドチーズ 適量(※写真には写っていません)
EVオリーブ油 大さじ2
<ブルギニヨンバター>
バター(有塩) 200g
ニンニク(みじん切りにする) 13g
赤玉ネギ(みじん切りにする) 35g
塩 1g
パセリ(みじん切りにする) 25g
アーモンド 6g
レモン汁 大さじ1
スターアニス(八角) 2g(1片)
<下準備>
・「ジャガイモ」を水から茹でます。初めは中火で沸騰したら弱火に落としコトコト茹でましょう。途中で竹串などを刺して「スッ」と真ん中まで刺さったら湯切りして皮を剥きます。水からトータルで20分くらいでしょうか。前もって「茹でジャガ」を仕込んでおくと時短になります。茹でている間にその他の仕込みを進められるので、ジャガイモは1番先に下準備をするのがお勧めです。・「シイタケ」は石づきを落とし、さらに足は根本からカットしてください。今回は傘の部分を使いますので、この美味しそうなお御足は他で使うとします。理由は「カキ」や「ホタテ」よりも食感が残るので、主役の貝類の存在を残したいからです。刻んでチャーハンに入れるもよし、スンドゥブチゲに入れてもよし、シンプルに味噌汁でもよし。結構良いお出汁が出ます。
・「カキ」は500mlに10gの比率の塩水に浸し、ひだの間など優しくもみ洗いし汚れを落とします。あまり水が汚れるようでしたら、同じ作業を繰り返します。カキがピカピカになりプリプリになってきます。ペーパータオルでよく水気を切ってください。程よく水気が切れたら軽くホワイトペッパーを振ります。塩水で洗ったことにより軽く下味が付いたのと、「ブルギニヨンバター」にしっかり塩味がありますのでここでお塩はふりません。
・「ベビーホタテ」は貝ひも下に黒い汚れが付いています。どうやら排泄物らし。ボイルホタテなので指でつまむと簡単に取れます。貝ひもが嫌いな方は取り除いても構いません。ただしホタテは貝柱ももちろん美味しいですが、この貝ひもに食感と旨味がありますので是非ご一緒に。
<作り方>
1.「ジャガイモ」は縦に半分に切ります。「オリーブ油」を引いたフライパンを中火にし断面から焼いて行きます。きつね色にこんがり色づいたら反対側も焼きましょう。片側は半円形なのでフライパンを少し傾けてフライパンの側面の立ち上がりを使うと良い色に焼きやすいです。
全体がほどよく焼けたらバットに取り出し、平らな面に「シュレッドチーズ」を乗せて160°のオーブントースターで5分焼きます。
2.「ジャガイモ」を取り出したフライパンに大さじ1のオリーブ油を足して、火の入りの遅い「カキ」から焼いて行きましょう。「カキ」がコロっと膨らんできたら「ベビーホタテ」と「シイタケ」も投入します。「シイタケ」に火が入れば完成です。
3.<ブルギニヨンバター>は火を入れすぎるとせっかくのパセリの色と香りが飛んでしまいます。ミルクパンやソースパンでゆっくり溶かすのがベストですが、無ければ耐熱容器に入れて電子レンジへ。溶かしたバターと材料をフードプロセッサーに入れ、パセリの緑が全体にゆきわたるまで回し、保存容器に移します。
4.オーブントースターからチーズが焼けた「ジャガイモ」を取り出しお皿の真ん中に一文字に。その上に「カキ」と「ホタテ」を乗せてください。ほどよく前後にこぼれた具材が「映え」を演出してくれます。お皿の前を決めたらそれぞれの具材が見えるように盛り付けましょう。スプーンで<ブルギニヨンバター>を回しかけて完成です。
5.ワインの注がれたテーブルに運んで、アツアツのうちに。
500mlのウーゾを一気に飲みした私のその後は…
奥の個室で静かにメニューを考案中のYシェフを見つけ「ヨッちゃん、ヨッちゃん、こんなところで何してるの?」と仕事の邪魔をしていたそうな。
今ではペルノーのソーダ割りを好んで飲みますがストレートの一気飲みは危険です。あんな無茶は生涯に一度ですけれど。レストランのキッチンって怖いね(笑)
■家メシを「特別な夜の一皿」に変える1本
ブルギニヨンバターにはブルゴーニュのワインで。牡蠣は肉類と同じくグリコーゲンが豊富なので温かいお料理にした場合は爽やかな赤でも良いかと思います。
鉄分の少ないピノ・ノワールなどでしたら魚介類とも比較的に合わせやすいです。
ただ今回はバターが主役。相性の良いシャルドネにて。
ほんのり樽の効いたシャルドネは乳製品との相性抜群です。
飲み過ぎ注意です(笑)
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