愛あるセレクトをしたいママのみかた
  1. E・レシピ >
  2. 食コラム >
  3. <連載短編小説>#もう一度レストランで|「焼肉」宇垣美里

<連載短編小説>#もう一度レストランで|「焼肉」宇垣美里

それが大人のやり方だと思っていたのに。生き残るために薄ら笑いでごまかして見ないふりしていたそれは、心のどこかで腐り落ち、大きな穴を開けていた。

「もう!ホルモンっていつまで焼けばええん?」
泣きながら癇癪を起す藍の目元はアイラインが溶けだして、目の下に黒くに広がっている。はたと目の下に触れれば、私の目元もぐちゃぐちゃで、指先にマスカラとアイシャドウの残骸がべったり付いた。きったね。どんな顔してるんだ今?なんだか全部がおかしくなって、気づけば二人でケラケラと笑いだしていた。私が道半ばで転んだことを知ってくれている人がいる。傷ついて嫌になって逃げだした私の情けないその横顔を記憶していてくれる、そんな人さえいたら、それは独りじゃないってことだ。

「今日は私のおごりや、いっぱいたべや」
乱暴に目元をこすったせいで広がったラメをギラギラ光らせながら、藍が肉を皿に盛った。

タレのしっかり絡んだマルチョウは噛めば噛むほど肉の旨味がにじみ出る。ついで鼻を抜けるのは幸せが具現化した匂い。コリコリとしっかり弾力のある歯ごたえを堪能すれば、口いっぱいに広がった甘い脂がじんわりと体に染み込んで、どこかの細胞がふいに生き返るのを感じた。口の中に残った脂が勿体なくて、慌てて白飯をかっくらう。沁みる。肉は、やっぱり人を救う。
そういえば件の上司に中学生男子みたいな食い方だなと鼻で笑われたことを思い出した。それの何が悪いのだろう。凹まれ損なわれた心のどこかはまだ少し痛むけど、傷つけられた記憶は何度も自分を苛むけれど、補うように肉を口に運ぶ。その度に、藍がせっせと新しい肉を焼き、私の皿へ放り込む。育てるように、慈しむように。
私に優しいひとと食べるごはんは、美味しい。ひとまずは、それでいいと思えた。

著者プロフィール


宇垣美里うがき・みさと
1991年4月16日生まれ兵庫県出身。
次ページ :  2019年3月にTBSを退社、4月よりオスカープロモーシ… >>
関連リンク
この食コラムに関連するレシピ
今あなたにオススメ
この記事のキーワード
最新のおいしい!
ウーマンエキサイト特集
記事配信社一覧

【E・レシピ】料理のプロが作る簡単レシピが4万件!

アプリ版
「E・レシピ」で、

毎日のご飯作りが
もっと快適に!

E・レシピアプリ

画面が
暗くならないから
調理中も
確認しやすい!

大きな工程画像を
表示する
クッキングモードで
解りやすい!

E・レシピアプリ 作り方

E・レシピで一緒に働いてみませんか?料理家やフードスタイリストなど、募集は随時行っています。

このサイトの写真、イラスト、文章を著作者に無断で転載、使用することは法律で禁じられています。

RSSの利用は、非営利目的に限られます。会社法人、営利目的等でご利用を希望される場合は、必ずこちらからお問い合わせください。

Copyright © 1997-2024 Excite Japan Co., LTD. All Rights Reserved.

最近見たレシピ