愛あるセレクトをしたいママのみかた
  1. E・レシピ >
  2. 食コラム >
  3. <連載短編小説>#もう一度レストランで|「焼肉」宇垣美里

<連載短編小説>#もう一度レストランで|「焼肉」宇垣美里

焼肉、それは祈り。どっぷりとタレに漬けられた肉の塊を網の上にそっと乗せ、わが子が如くじっくりじっくり育てた末に、ここぞというタイミングで食らいつく。食欲のままに、本能のままに。とって、やいて、くう。太古の昔から人類が生きるために踏んできたであろう工程をなぞれば、自分が人間という名の動物であることを、生きているってことを、実感できる。食べることは生きること。だから、私はまだ生きている。

「仕事、辞めたんだあ」
焼肉屋の個室に響いた園子の声は意図した通りののん気さで、そのがらんどうな明るさは我ながら耳障りでしかない。頭が空っぽな人間のフリをするのは特技の一つだったはずなのに、その嘘っぽさが情けなくて鼻の奥がギュっと切なくなった。え?、と真剣な眼差しで肉をつつきまわしていた藍が、撃たれたような勢いで顔をあげる。ふわりとはねた髪が耳周りのみにいれた明るいアッシュベージュの髪束を隠す。彼女がぱちくりと大きく瞬きすると、まぶたの上で濡れたように光る偏光パールが眩しくて、この子は綺麗になったな、と改めて思った。
大学の新入生ガイダンスで隣同士だった藍とは、もう十年以上の付き合いになる。彼氏ができた時、その彼氏にフラれた時、ゼミに受かった時、就活で祈られ続けた時……学生の頃、事あるごとに通っていた食べ放題の焼肉屋は、社会人になる頃には肉寿司を出してくるようなこじゃれたチェーン店に、三十近くなるとドライアイスの煙の中から肉が登場するようなしゃらくさい店へと変化した後に、実家みたいな雰囲気のこじんまりした店に落ち着いた。
次ページ :  この店に来るのは三度目だ。私が希望する部署に配属が決まった… >>
関連リンク
この食コラムに関連するレシピ
今あなたにオススメ
この記事のキーワード
最新のおいしい!
ウーマンエキサイト特集
記事配信社一覧

【E・レシピ】料理のプロが作る簡単レシピが4万件!

アプリ版
「E・レシピ」で、

毎日のご飯作りが
もっと快適に!

E・レシピアプリ

画面が
暗くならないから
調理中も
確認しやすい!

大きな工程画像を
表示する
クッキングモードで
解りやすい!

E・レシピアプリ 作り方

E・レシピで一緒に働いてみませんか?料理家やフードスタイリストなど、募集は随時行っています。

このサイトの写真、イラスト、文章を著作者に無断で転載、使用することは法律で禁じられています。

RSSの利用は、非営利目的に限られます。会社法人、営利目的等でご利用を希望される場合は、必ずこちらからお問い合わせください。

Copyright © 1997-2024 Excite Japan Co., LTD. All Rights Reserved.

最近見たレシピ